脳トレの新常識:計算力だけではない、共感力や潜在能力を引き出す脳の活性化

 

私たちの体は常に、無意識のうちにバランスを保とうとしています。この働きを最も根源で支えているのは、脳の奥深くにある脳幹部です。

 

脳幹は、魚類が誕生した時代から存在する、私たち人間を含むあらゆる脊椎動物に共通する非常に古い脳の領域です。生命維持に不可欠な機能をつかさどり、体の状態をニュートラルに保つために絶えず活動しています。また、体の平衡感覚は主に小脳で処理され、視覚の制御には中脳が深く関わっています。

 

この脳幹の上に位置するのが、辺縁系と呼ばれる領域です。辺縁系は、意欲を生み出し、危険を察知して生存のための行動を促す、いわば本能的な部分です。創造性やひらめきの源泉でもあり、可能性を秘めた宝庫と言えるでしょう。

 

私たちが危険を感じると、辺縁系からβエンドルフィンという脳内ホルモンが分泌され、A10神経が活性化します。これにより、記憶を司る海馬の機能が向上することが知られています。しかし、慢性的な恐怖や不安は扁桃体を過剰に活性化させ、ネガティブな感情を増幅させてしまいます。その結果、脳内のコルチゾールが増加し、精神安定に重要なセロトニンの生成が抑制されてしまうのです。だからこそ、辺縁系の状態を穏やかに保つことが、心身の健康にとって非常に大切になります。

 

さらに、辺縁系の上には、哺乳類の進化とともに発達した大脳新皮質が広がっています。思考、言語、理性などを司る、人間にとって最も新しい脳の領域です。

 

ここで重要なのは、下位の古い脳(脳幹や辺縁系)が安定することで、上位の新しい脳(大脳新皮質)も安定していくという関係性です。古い脳は、理性的な思考や言語による理解を超えた、感覚的なレベルで私たちの状態を左右します。「なぜ?」と頭で考えても理解できない領域であり、感じることや気づきを通して活性化していきます。このプロセスは、体だけでなく脳全体の統合を促します。

 

辺縁系は、感情といった意識の根底を形成する部分であり、私たちの心に深く影響を与えます。この領域での機能不全は、いわゆるトラウマとして現れることもあります。

 

私が日頃から「心」をテーマにしたブログを書くのは、脳全体を視野に入れたアプローチが重要だと考えているからです。パニック症、心身症、うつ傾向など、心のアンバランスを抱える方が、ロルフィングやクラニオセラピーを受けることで改善が見られるのは、これらの施術が単に体だけでなく、脳の機能にも働きかけているからです。

 

ロルフィングやクラニオセラピーは、ある意味「脳のトレーニング」とも言えるでしょう。脳の機能は、計算や漢字といった認知能力だけではありません。他者への共感力、新しいアイデアを生み出す発想力、体を支え動かす能力、そして五感を通じて世界を感じ取る知覚力など、より根源的な力は、脳幹をはじめとする古い脳の活性化と深く結びついています。これらの領域を活性化することで、私たちは眠っていた潜在能力を引き出し、より豊かな人生を送ることができるのではないでしょうか。