内気な僕と、踊るファンキー大魔神5

 

「朝から腰あたりが通らない詰まっている感じがするのよね」と彼女は言った。

「そうなんだ、ちょっとみてみるね」と僕は言い、

離れた位置から、彼女に向かって左手を向けた。

 

 

「腰あたりが通らない感じがするんだね、そこにちょっと立っていてね。」左手上向きにし、それと対をなす右手をフォローさせながら、弧を描くように広げてみる。少しづつ手を広げていくように動かした。そこに空間が生まれてくるように意識してみる。

 

意識する。我々施術者だとインテンションという言葉を使う。intentionとは、意図、意向、意図するもの、目的という意味である。少し変わった意味で「交際中の女性に対する男性の結婚の意志」なんていう意味もあるそうだけど、そんな大きいインテンションだとどんなことになってしまうんだろうと少し思う。この意識する仕方が現実に作用するのだと思うが、この意識するやり方にはいろいろある。表現する方法がないので、一般的には計測可能なもので考えると脳波の状態が違っているんだと思う。(以前セッション中の脳波については書いたことがあったので参照セッション中の脳波)。

 

次の瞬間、Mさんは、声を出した。「なんかお腹の中に空間が広がっていくような感じがするよ。なんか詰まっていた感じがなくなっていくよ。」そのまま少しその感じを続けていると、今度は声が「あ、でもなんか空間が大きすぎて変な感じがして来たよ。うわー横隔膜が上がりすぎ。」僕はすぐにやめたけど彼女の中に作った空間は大きいまま作られてしまった!空間に作用することはできてもを広げることができたけど、遠隔で働く力を僕はうまくコントロールできてない。

 

どうしよう。と思った瞬間、周辺視野に多くの人が見えてきた。気がつけば今はトレーニング中、周りにはたくさんのロルファーがいてた。呆然としている僕の横で、彼らは彼女の身体状況は落ち着く方向にシフトさせてしまった。すごい、これだけロルファーが集まっているとなんでもできちゃいそうだ。ロルフィングの身体に作用するパワーはすごいパワフルだなー。落ち着いてきたMさんに僕は頭を下げた。ごめん。

 

それにしてもこの左手のキラキラは、僕に不思議な力をもたらしてしまったようだ。左手の異変は、なぜか知らないけど、不思議な知覚がついていた。空間に作用する不思議な力。空間を触る知覚? なんだこれ? これからしばらくの期間、僕はこの左手のキラキラと、試行錯誤、格闘することになる。キラキラに、見つめ、話しかけ、そしてダイアログ(対話)を試みることになる。自分の体との対話。自分の体の中のことなのに、自分の知覚でない風に感じる感覚。

 

思えば自分の体との対話なんてことを始めたのは、ロルフィングを知ってからだ。それまでの僕は、体を酷使してばっかだった。体はいつも僕のために頑張ってくれていた。時に熱を出したり、時に不調になったりするけど、体はいつも無言で、僕の要求のままを行うべく、働いてくれていた。体にいい。そんな話を聞くと、栄養ドリンクを飲んだり、風邪を引いたといえば薬を飲んだりして。それは僕の為には良かったけど、もしかしたら体のためには良かったのかわからない。もしかしたら体を無理に働かしたり、体が機能回復しようとしているのを邪魔したりしていたのかもしれない。体の声を聞くこと。これはもしかしたらものすごく大事なことなんじゃないか。そんなこと今まで誰も教えてくれなかった。筋肉をつけるとか、持久力をつけるとか、体も含めて自分自身なのに、僕はロルファーになっても、まだ体を酷使していたのではないか。そんな体から来た初めての来訪者。それがあの黒い象のような生き物だったのか。彼はこういう風に最初言ってた。「欲しいものを言え。一つ願いを叶えてやる。」それにすぐに答えられなかった僕。「お前、何がしたいんだよ!」それにもすぐには言葉にできなかった僕。返す言葉もなかった僕。

出会った証拠を体に残していった彼。そしてこの左手のキラキラ。

人間は一つ一つが理解できても、言葉がないと表現できない。認識できない。そしてそれが線で結ばれないと人間は理解できない。意味が生じるには文脈的な関係性が必要だ。僕にはまだ一つ一つの体験の断片が、感覚として残っていて、まだそれが何をさしているのか、理解できない状態でいた。

この自分の中での新しい出会いは、僕に何をもたらすのだろうか。能天気に、ここまでの人生、比較的無事平穏に過ごしてきた僕、内気な僕に訪れた人生最大の危機は、こんな風に展開し始めていった。人生何があるかわからないものだと思う。驚きは突然やってくる。

 

さてここでちょっと整理してみたい。

ロルフィングって一体何をやっているのか。体の統合ってなんなのか。

 

ロルフィングは、医療や鍼灸や一般的な整体とは違って、痛いとか、違和感を治すという対処的な処置はせずに、体というのを1つの全体としてみて、身体的に統合していく。統合された体はニュートラルになっていく。統合するとは、身体的に一体として有り、そして動くこと。色々なアングルからみて、負担がかかっていたり、使えてない体の関係性を開いたり、地面との関係性を向上させたり、空間や環境との関係性を開いたり、実に色々なことをやっている。まとめてみると本来の体の動きを取り戻すために、体を構造的、機能的、エネルギー的、幾何学的、精神生物学的なアングルで、統合していく身体再構築プログラムである。主に重力との関係性によって、そして体の持つ有機的な生命力の状態を取り戻すことにより、体をニュートラルを取り戻していく。知覚の変化、体の外との関係性、そして体の中との関係性(参照 プロプリオセプション)に変化が生じる。 

 

ある意味、医学的なアプローチとは違う代替医療的なものでもあるし、体の調整力や機能的回復、また身体状況の変化に伴う心理的な状況の変化、在り方の変化をもたらす。そんなボディワークである。ロルフィングをする施術者をロルファーといい。現在日本には、125名前後のロルファーがいて日本各地で活躍中である。目的は統合的な楽で使いやすい身体の実現であるけれど、ロルファーによって統合の在り方は実に様々だし、また受けられる方の、目的によって、得られることは変わってくる。ロルファーも実に個性的で、様々なバックボーンを持った方がいる。経験は様々だと思うが、人生や身体状況に、違和感があって、次に自分を進めたい、違うアプローチで身体状況に変化をもたらしたい。そんな方には、是非検討して貰いたいものである。

 

 

トレーニングの最中もセッションの予約は毎日入っていた。なので授業が終わると僕は足早に会場を後にし、渋谷区桜丘町にあるセッションルーム(2016年4月青山に移転済み)に向かった。このセッションルームは広さ約16畳、昨年一人で始めるに当たって、ウォーキングスペースも十分に取れたこの場所を選んだ。セッションを行う場所は大事だ、「場」をどう作るかがセッションにも大きく影響する。

授業での学びと左手のモヤモヤモードから意識を切り替えてセッションモードに切り替えた。今日のクライアントは、大きなレストランやライブを行う歌手の方であった。こんにちは!ドアが開くと、少し暗い顔で彼女が入ってきた。

 

つづく。

 

 

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