内気な僕と、踊るファンキー大魔神

 

その日は、忙しく朝からずっとセッションが続いてた。最後のセッションが終わり、お客さんを送り出した後、少し眠気がして僕は施術ベッドに倒れこむように寝っ転がった。いつのまにか寝てしまったようだ。でも眠り込んでしまった訳でもなく、まどろみのような時間。

 

突然、向こうから得体の知れない動物がやって来るのが見えた。象?真っ黒い姿をしたその生き物は一歩一歩僕の方に近づいて来る。人間ではない。なのにその瞳は、とても高貴そうで遠くから見ていてもなわかる。その瞳に惹きつけられたまま、僕は彼から目を離せない。そして滑るように一歩、また一歩と僕に近づいて来る。

 

その体を覆う黒は今まで見たこも無いような深い黒。何もかも吸い込んでしまいそうな黒。そんな黒があったのか、と思わせるような黒。色というのをいつ意識するだろう?それは何色と言われてはじめて意識するものではないだろうか。普通は意識しないと色なんて気にして生きていない。無意識だ。

 

その動物の体の色は、僕に色を意識させる、そんな黒。はじめて見る黒い色。全てをブラックホールのように吸い込んでしまいそうな黒。その黒い生き物が向こうから僕に近づいてくる。少しだけ怖いような、そして優しいようなしっかりした瞳をした生き物。気がつくと彼の周りにはインドの古い競技場のような風景が現れている。そして彼は高貴そうな衣装を纏っていた。鋭い視線に見つめられるとそこから目が離せない。その体は、やけにリアルで本物以上に本物っぽく、普段、夢の中で現れるような存在をはるかに超えていた。その象のような生き物は、するスルスルっと滑るような歩み、高貴な歩み。それ以外に形容のしようがない初めて見る歩み。あっという間に僕のすぐ前まで来た。

 

僕は、びっくりして、目を覚まし、手をついて体をベッドから起こした。しかしその象のような動物は、僕の目の前にいた。黒い体をした巨大な生き物は僕の目の前にいた。「えっ!本物!」慌てて自分の手を見る。右手で左手を触って見る。しっかりした感触。ボディワーカーである僕の触覚だ。僕はこの状況を理解できなかった。突然の出来事にだたそのことを受け入れるしかできなかった。でもその瞳に見つめられているとその場所から動けない。

 

人生で初めての、おとぎ話のような出会いは、そんな風に突然始まった。彼は誰なのだろう。彼の目的は。彼は僕を殺すつもりなのか。この突然現れた存在に、僕は何も出来ずに、彼を眺めていた。しばらくすると、彼は声を掛けてきた。

「欲しいものを言え」。それは言葉なのか?瞳から語りかけて来るような声。声なき声。でもしっかりと意味が伝わって来る声。体の中から触れてくる声。声が聞こえたことに驚いて僕は声が出ない。

 

僕は今自分で置かれている状況を頭の中を整理していた。ここは渋谷区桜丘町の坂の上にある僕のセッションルーム。僕は今日最後のお客さんを送り出し、ベッドに倒れ、リアルな夢を見た。夢の中で、象のような動物が現れ近づいてきてびっくりして飛び起きた。飛び起きたら目の前にその動物がいて、僕に話しかけてきている。この状況を理解する間も無く、彼は再び声のようなものを発した。

 

「お前、俺の声が聞こえてるようだな。欲しいものを言え。一つ願いを叶えてやる。」

それが彼と僕との最初の出会い。 

 

恐怖と畏敬。

驚嘆と興味。

現実と幻惑。

 

人生とは本当に不思議なことがあるものだ。

僕は生まれて初めて知った新しい驚き。

 

何故、こんなことが起こったのか?この象のような動物は何者なのか?彼の意図は?僕の頭の中は、?マークで一杯。 そしてこの新しい出会いが、僕の新しい人生の物語が始まることになるなんて、その時の僕は知るよしもなかった。人生に起こることの全てに理由なんてない。人生の引き金はある日突然やってくる。意図もなく。いや意図はあるのか。でもその意図をまだ僕は知らない。でも現実は意図に関係なくやってくるのだ。「今、ここ」で起こっていることのように。

それがなんだかわからなくても。状況は変わっていくのだ。  

 

そしてまた声が体の中から響いた。

「お前、何が欲しいんだ」

 

 

続く。