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定食屋のおばあちゃん

小さい時から大のおばあちゃん子で、話好きなおばあちゃんと会うと、ついつい長話をしてしまう。

 

午後の打ち合わせを前に昼食をとる為に入った定食屋さん。この店はおばあちゃんの一人営業らしい。心地よい広さのカウンター席に座り、ランチメニュyーの中にあった生姜焼き定食を頼む。

 

食事が終わりそうになる頃、片付け作業を終えていたおばあちゃんが話しかけてきた。

 

話を聞くところ、店を始めて54年、御年85才らしい。創業時の苦労の話に始まり、若い頃のモテ話、そして今でも毎週通うプールの話。

長くからの友人が皆入院中のこと、娘や孫とのやりとりの話、体が柔らかいので、前屈で手が床につく話。(実際にやってくれた)、

 

でもねー来年で辞めようかなって思っているんだ、もういいかなーって思って。。。という、いつの間にかの身の上話。

 

 

 そういえば、お兄さんは仕事何やってるのさ?

まー動きやすい体つくり、人の健康を引き出す仕事だよ。

と、持っていた自分のパンフレットを渡した。

 

へーそうかい、体が悪くなったらお兄さんのところ行ってあげたいけど、残念 定期検診を受けているけど、私、どこも悪くないんだよー、笑。 残念だなーと屈託のない笑顔。

 

この店はきっと昔流行っていたんだろうな、

この人の話を聞くために沢山人が集まっていたんだろうな。

 

「うちの常連さんはみんな出世して偉くなってしまってさー、頭取とか、支配人とか。爺さんばっかり、笑

「みんなたまに寄ってくれるんだけどねー、」なんて話が弾み、気がつくと、小一時間、長居してしまった。

 

会計を済まし店を出て、少し歩いてたら電話かかってきた。

誰だろうか、知らない人からの電話だ。

電話に出るとさっきのおばあちゃん。

「お兄さん、忘れ物!!」、

僕は紙袋を忘れたことに気がついた。

 

「すいません、ああ、すぐに取りに行きますー。」

僕は小走りに店の方へ戻って行った。

店のそばまで戻ると、にっこりしたおばあちゃんが僕の忘れ物を手に走って来た。

85歳のおばあちゃんが走ってくる姿をみたことがあるだろうか?

 

僕は恐縮になり、「すみません、ありがとうございます。」

僕は忘れ物を受け取り、お礼を言った。

「仕事頑張ってね。」「はい」

 

なんかドラマみたいだな。。。

 

 

そんなこと思いながらおばあちゃんから紙袋を受け取った。 

僕はドラマを続けることにした。

 

ねえ、おばあちゃん、

家から、店までは、自転車で来るって言ってたよね?

「もしも、もしもだよ。」

「店に来る道で自転車で転んだりして、自分では全然気がつかなくて、

次に目が覚めたら気がついたら病院でベッドの上で、

その時にさ、体の自由がきかなくて、わけわからなくて、

もし回りの人に話そうとしても全然わかってくれなくて、病院の先生も全然話のわからない人だったらさ、遠慮なく、今のその番号に電話してね。俺が駆けつけるから。」

「俺はおばあちゃんのわからないことを全部、みんなに説明してあげるから。

俺ね、体のことなら意外となんでも出来るんだよ。」

そう言った。

 

「あんた、縁起でもないこというねぇ」

「あんたいったい何者なの?」

「ロルファーってんだけど、わからないよね、からだの魔法使いだよ。

さっきの前屈で、おばあちゃんのからだのことはもう何も話さなくてわかるから。

俺が周りの人が分かるように、俺が説明してあげるから。」

 

おばあちゃんは微笑みながら、「ふーん、わかったよ。そうするよ。」といい、

手を出してきた。

 

僕はその手をぎゅっと握り、握手をした。

しわくちゃだけど、あったかい手だった。 

 

じゃあね、またね。

手を振って僕は打ち合わせに向かった。

 

僕の携帯には、名前は知らないが「定食屋おばあちゃん」

という登録が入っている。 

 

 

僕は打ち合わせに遅刻した。

 

 

 

追記

我がおばあちゃんは、93歳で逝きました。

葬式には出たけど、仕事が忙しく打ち合わせがあった為に火葬場には行けず。

人生最大の後悔です。