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肉体の持つ感性を開放するための最初の実験場

岡山県奈義町にひっそりと佇む奈義町現代美術館は、建築家・磯崎新の独創的な設計が光る場所だ。収蔵作品はわずか三点ながら、そのどれもが他に類を見ない異質な世界観を放っている。中でも、私が強く惹かれたのは、荒川修作+マドリン・ギンズが1994年に生み出したインスタレーション「遍在の場・奈義の龍安寺・建築する身体」だった。

足を踏み入れた瞬間、巨大な円筒形の建造物が目に飛び込んでくる。驚くべきことに、その側面には京都の龍安寺の石庭が精巧に模されており、一対の渦巻き、すなわち中国由来の「陰陽」の模様を描いているのだ。地面にしっかりと立っているはずなのに、視線を上げれば、真上から見下ろしたような石庭の景色が広がるという、現実離れした感覚に戸惑いを覚える。この作品は、私たち人間が本来持っている肉体の根源的な感性を呼び覚ますための、最初の実験場だとされている。

私たち人間には、自らを安定させ、外界の刺激から守るための巧妙なメカニズムが備わっている。もちろん、これらの仕組みは生きていく上で不可欠なものだが、時に、その安定という名の檻の中で、私たちは無意識のうちに偏った癖やパターンを身につけてしまう。それらは意識の奥底に潜み、まるで影のように私たちの行動や思考を操っていく。

この奈義の龍安寺は、そうした凝り固まった癖やパターン、そして知らず知らずのうちに狭まってしまった感受性の枠から抜け出すための、いわば「装置」のような存在だと感じた。それは、固定された思い込みからの解放を促す試みであり、まさに身体を通して変容を促す、アート版のロルフィングと言えるのではないだろうか。