ぎょうざ好きのてっちゃん 3

 

その時です。さっきまでこちょこちょくすぐっていた筈の

原っぱの草が俺の足と腕をぐっと触っている感じがしてきました。

手とか足とか動体とか絡まってぐっと大地につなぎ止めた。

草はみしみし音を立ててちぎられながら、

するとまた別の草が手足に伸びてきててっちゃんを捕まえました。

ジェットコースターみたいな振り回しの中、草たちに繋ぎ止められながら、てっちゃんは泣きながらさけびました。

 

「ぜんぶいっしょがいいよ。雲も空も太陽も原っぱも虫もぜんぶいっしょでいたいよー。」って。

そう叫んだ。

心からそう思いました。

 

その瞬間、目の前がまぶしくなって、

太陽の眩しさを感じ、目を開くと、

嵐はすっかり収まって、風がやみ、

大地は回転するのを止めました。

 

てっちゃんは身体を起こすと、あたりをみると、いつもどおりの原っぱでした。

半ズボンの足の上にちぎれた草がたくさん乗っかっていました。

右の靴はいていなくて、5Mくらい向こうに転がっていました。

頭の上にも草がついていて、てっちゃんは左手で、あたまの草をはたきました。

 

風は穏やかで、鳥が鳴いていた。

てっちゃんは空を見、空が元の空であることに気が付き、

雲が元の雲であることに気が付き、長袖の裾で涙を拭きました。

そして立ち上がりました。

5M先の靴を取りにいき、それを履き、はらっぱに自分が立っていることに気がつきました。

ジャンプしました。ちゃんと、はらっぱに着地できました。

「大丈夫だ!」

 

 

あたりは、いつものはらっぱで、いつもの河原で、

 

しずかにそして穏やかに川の水が流れていました。

 

電車がすきなてっちゃんは駅員さんのように

 

名も無い草や鳥を指差し確認しながら川沿いの原っぱを歩いていきました。

 

 

 

「雲、オッケー」

 

「空、オッケー」

 

「はい、鳥さん、オッケー、そのまま上方向へ飛んで良ーし。」

 

 

 

てっちゃんのおなかがぐーとなった。

 

「てっちゃんのおなか、オッケー」

 

「ぐーというおと、オッケー」

 

心に入ってくるもの全部、ひとつづつ指をさし、

 

名前を呼び、そしてオッケーを出しながら、歩いて家まで帰りました。 

 

 

 

「ただいまー」

「お母さん、夕ご飯は何?」

「てっちゃんの好きなイクラだよ。」

 

「いくら?いくら、いくらはつぶつぶだから、オッケーじゃなーい!」

「いくら、いらなーい」

「え!だって大好物じゃない?」

「つぶつぶはいらなーい、今日から好きじゃなくなった。だってばらばらになっちゃうんだよ、おかあさん」

「ばらばら?どういうこと?」

「てっちゃん今日はぎょうざがいい!、ぎょうさ、オッケー」

 

てっちゃんがそういうと、

お母さんは、おばあちゃんが作った餃子が届いているわよ。

でもてっちゃんおばあちゃんちで、ぎょうざ食べたんじゃないの?

「食べたけど、ぎょうざがいい!おばあちゃんぎょうざ、オッケー!」とお母さんに言った。

 

 

「はい、おばあちゃん、ぎょうざ、オッケー!」とお母さんが言った。

「あ、それはてっちゃんの役目だよ。」

「おかあさん、ずるいー。ずるいと悪魔になっちゃうよー。」

「はいはい、はやく食べなさい。早く食べないと悪魔がやってくるよー。」

「悪魔は怖いから、てっちゃんはやくたべるよー」

 

「おばあちゃんのぎょうざ、おいしいね、お母さん」

 といっててっちゃんは餃子をパクパクと食べました。 

 

おしまい。