
その時です。さっきまでこちょこちょくすぐっていたはずの
原っぱの草が僕の足と腕をぐっと触っている感じがしてきた。
葉っぱが手や足や胴体が絡まってぐっと大地に繋ぎ止められた。
草はみしみしと音を立ててちぎられながら、
するとまた別の草が手足に伸びてきて、てっちゃんを捕まえた。
ジェットコースターみたいな振り回しの中、草たちに繋ぎ止められながら、てっちゃんは泣きながら叫んだ。
「全部一緒がいいよ。雲も空も太陽も原っぱも虫も、全部一緒にいたいよー!」って。
そう叫んだ。
心からそう思った。
その瞬間、目の前が眩しくなって、
眩しさの中、ようやく目を開けると、
嵐はすっかり収まって、風は止み、
大地は回転するのを止めていた。
てっちゃんは体を起こすと、あたりを見ると、いつも通りの原っぱだった。
半ズボンの足の上にちぎれた草がたくさん乗っていた。
右の靴は履いていなくて、5メートルくらい向こうに転がっていた。
頭の上にも草が付いていて、てっちゃんは左手で頭の草を払った。
風は穏やかで、鳥が鳴いていた。
てっちゃんは空を見上げ、
雲が元の雲であることに気が付き、長袖の裾で涙を拭きました。
そして立ち上がりました。
靴を取りにいき、それを履き、はらっぱに自分が立っていることに気がついた。
ジャンプしました。ちゃんと、はらっぱに着地できた。
「大丈夫だ!」
あたりは、いつものはらっぱで、いつもの河原で、
しずかにそして穏やかに川の水が流れてた。
電車がすきなてっちゃんは駅員さんのように
名も無い草や鳥を指差し確認しながら川沿いの原っぱを歩いていった。
「雲、オッケー」
「空、オッケー」
「はい、鳥さん、オッケー、そのまま上方向へ飛んで良ーし。」
てっちゃんのおなかがぐーとなった。
「てっちゃんのおなか、オッケー」
「ぐーという音、オッケー」
心に入ってくるもの全部、ひとつづつ指をさし、
名前を呼び、そしてオッケーを出しながら、
歩いて家まで帰りました。

「ただいまー」
「お母さん、夕ご飯は何?」
「てっちゃんの好きなイクラだよ。」
「いくら?いくら、いくらはつぶつぶだから、オッケーじゃなーい!」
「いくら、いらなーい」
「え!だって大好物じゃない?」
「つぶつぶはいらなーい、今日から好きじゃなくなった。だってばらばらになっ
ちゃうんだよ、おかあさん」
「ばらばら?どういうこと?」
「てっちゃん今日はぎょうざがいい!、ぎょうさ、オッケー」
てっちゃんがそういうと、
お母さんは、おばあちゃんが作った餃子が届いているわよ。
でもてっちゃんおばあちゃんちで、ぎょうざ食べたんじゃないの?
「食べたけど、ぎょうざがいい!おばあちゃんぎょうざ、オッケー!」とお母さんに言った。
「はい、おばあちゃん、ぎょうざ、オッケー!」とお母さんが言った。
「あ、それはてっちゃんの役目だよ。」
「おかあさん、ずるいー。ずるいと悪魔になっちゃうよー。」
「はいはい、はやく食べなさい。早く食べないと悪魔がやってくるよー。」
「悪魔は怖いから、てっちゃんはやくたべるよー」
「おばあちゃんのぎょうざ、おいしいね、お母さん」
といっててっちゃんは餃子をパクパクと食べました。
おしまい。
